煙草の本数とキスの回数についての考察。


「……。」
 悟浄が目を覚ました時には既に狭いベッドに余裕がある状態で、ここぞとばかりに大きく伸びをする。大の大人が、否、文字通りどちらかと云えば身体の大きい部類に入るであろう男二人が寝るには狭いシングルベッド。二人で暮らすようになった時、もう一台買うように促すと、「狭い方が色々便利なんで、」とアッサリと却下された。どう便利なのかはすっかり身に沁みて理解している。身体を起こせば其処此処に散らされた淡い鬱血が目に入った。
「……、」
 紅い長髪を無造作に掻き上げ、ベッドから下りる。昨夜の情事の所為で一瞬蹌踉めく足。それをサイドテーブルに置いた煙草とライターを取ることで誤魔化して、ゆっくりと寝室を出た。



 小さなテーブルの上には既に食事の用意がされており、それを作った本人は薬罐の湯をカップに注ぎながら開いたドアを見やる。
「おはようございます。」
 頭を掻きながら煙草を咥える悟浄に八戒がそっと微笑みかけた。昼間の笑み。夜のそれとは違い、気が抜ける程優しい。
「オウ。」
 気後れしておざなりに相槌だけ打って自分の椅子に座る。熱い湯気を立てるカップが悟浄の目の前に置かれ、八戒が下から覗き込むようにして訊ねた。
「……起きて、大丈夫ですか?」
「ナニが、よ?」
 訊かれた理由には心当たりが在りすぎるが、視線を逸らして惚ける。そんなことは百も承知な翠の瞳の男は悪びれもせず続けた。
「いやあ、昨日、ちょっとムリさせちゃったかなーって、」
「俺をダレだと思ってるワケ?」
 片眉を上げて茶化す悟浄の強気な台詞を待ってました、とモノクルの奥の翡翠の瞳が窄められた。
「それは良かったです。今日はもっと愉しめそうですね。」
「スミマセン、ムリです……、」
 あっさりと両手を挙げて肩を竦める悟浄の不意を付いて、八戒の指先が伸びる。咥えていただけの煙草を掠め取ると、空いた唇に軽く口付けた。
「最近、この部屋の中の煙草の匂いが薄れたと思いませんか?」
「そお?」
 大袈裟に鼻を鳴らして部屋の中の匂いを嗅ぐ悟浄。長年住み慣れた部屋と自分にも染みついているだろう煙草の匂いなど、気にしたことも無かった。
「一日の消費量が減ってるんです。」
「へえ。」
「あなたは口寂しくて吸うでしょう?」
「んなこたーねーよ。」
 云いながらも完全には否定出来ない悟浄は、天井辺りに視線を彷徨わせている。
「だから、こうして――、」
 八戒は悟浄の赤い髪を軽く引いて顔を自分に向けさせると、そのまま頤をとってそっと唇を乗せた。
「ン……っ、」
 一瞬、身を引こうとする悟浄の項を抱いて、より深く口付ける。僅かに唇を外して舌先でそこを撫でれば、自然に口が開いた。誘うようにちらりと見える赤い舌に、八戒の理性が飛ぶ。鮮やかな翡翠に妖しい色が混じり出した。
 嚙み付くように口付ける。歯列をなぞった舌が口腔を侵し、逃げる悟浄の舌を上顎を舐めて誘う。元来快楽に弱い悟浄は、気が付けば自ら八戒を求めて深く溺れていた。
「僕がキスしてれば、その間は吸えませんし、口寂しくもない。」
「っ、は…ぁっ」
 酸素を求めて大きく呼吸する悟浄の紅玉が、生理的反応で滲んでいる。微かに染まる頬や耳元が八戒を煽って止まない。
「朝からその顔は反則ですよ?」
 掬った長い髪に口付けて、八戒が上目遣いに見つめる。翠の瞳に囚われた紅は逃げ場を失っていく。
「なっ、ソレ、俺の所為かよっ、」
「そうですよ、悟浄の所為です。責任とって下さいね?」
 極自然に座る悟浄の背に手を添え、立ち上がらせる。流される悟浄に自覚は無い。
「へ?」
「ああ、ちょうどコーヒーも冷めてしまいましたし、後で淹れ直せばいいでしょう。」
「え? ええっ?」
 寝室のドアを開き、中へと追いやる。
「悟浄なら、まだイケるんですよね?」
「や、全力で否定しましたケドっ、」
 悟浄が気が付いた時には狭いシングルベッドに押し倒され、覆い被さる八戒を見上げていた。煙草を摘まんでいた指を、お互いに絡ませて。
「シ終わったら、煙草も吸わせてあげます。」
「……っ!」
 夜の笑みで八戒が微笑む。悟浄に抵抗出来る術は無かった。





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