clinic。


 右手 ガ イタイ。

「……っ!」

 ガシャン。

 突然の激痛。
 いつもの、発作、だ。
 声を出すのは必死で堪えたケド、持ってたゲームのコントローラーが派手な音を立てやがった。ホラ、気付かれるじゃねーか。
「時任――?」
「な、んでも、ね……。ちょっと、コンビニ、行ってくらあ……。」
 引きちぎられるように、否いっそ、引きちぎられた方が楽だと思えるほど。
 浮かんでくる脂汗を久保ちゃんに見られないように、顔を伏せたまま玄関に向かう。
「――ん。」
 多分、ゼンブ見透かしてるハズだけど、普段通りに煙草をフカしながら見送ってくれた。 
 ドアを出て、続いて閉まる振動ですら右手に響く。息を吐いてドアに預けた背中を勢いで起こすと、逃げるようにエレベーターへ駆け込んだ。
 マンションの入り口を出て駐輪場の脇の植え込みの陰へ。
「……ったく、痛くなるなら痛くなる、って言えっつーのっ。」
 痛みを紛らわせるつもりで呟くテメェの声にハラを立てる。なっさけねー声。
 久保ちゃんに泣いて縋って治ンなら、やってやんなくもねーケドさ。頼ってやると嬉しそーにするし。
 右手手首を握り締める左手の方が痺れてくる。アタマの芯がグラグラする。

 ――ったくっ、イッテェ……、……?

 ア、レ? なんかフワって。よく知った、セブンスターの匂いが。

「?!」
 振り返って見上げたマンションの。
 俺んちのドアの前に。
 猫背の背中を見せて煙草咥えて立ってるのは。
「久保、ちゃ……ん。」
 声に出して名前を云ったら、なんか、イタイのが消えた。





「おかえり。」
「お、う。」
 ソファに座ってる久保ちゃんの横に落としたコンビニ袋。
 あの後、コンビニまで行って戻ってきた。ポケットに200円しか入ってなくて、誤魔化せるよーなモンすら買えな……。
「あー、このガム、食べたかったんだよね。」
 袋の中のガムのパッケージを覗いて、糸目で俺を伺ってくる。慌てて袋から引っ張り出して、久保ちゃんの鼻先に突きつけた。
「やる。」
「ありがと。」
 受け取るついでみたいに右手を掴まれて、布越しに手の甲に口付けられる。いつもだったら恥ずかしくって振り払ってるだろうけど、今日は好きにさせといてやる。
「……さんきゅ、な。」
「うん。」

 右手 ハ イタク ナイ。



...end...

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