溺愛。




 アマイモノ

 チョコ
 アイス

 そして、久保ちゃん。





「なあ、久保ちゃん――?」
 ソファを背にして座り込み、胡座の上のアイスを口に運びながら時任が俺を呼んだ。取り敢えず、ベランダから顔を出してみる。時任の視線はアイスのままなんだけど。
「久保ちゃんて、アマイ?」
「んー?」
 また突飛なコトを言い出した。不良刑事がナンカ吹き込んだンかねえ。質問のホントが見つからなくて、テキトーに、それから正直に答えた。
「食べたコトないからなあ。」
「……。」
 漸く、俺を見た時任は思いっきりゲンナリして、咥えていたスプーンをアイスに刺した。
 だって、『人を喰ったような』とか『喰えない』なんて形容詞は要らない程頂いてますケド、俺自身は喰ったこと無いし。
 でも、その返事は俺様サマにはお気に召さなかったよーで。
「ちげーよ。俺様にアマイかって訊いてンの。」
 片っぽの眉を上げて睨み上げる時任に見惚れて部屋に戻ると、その隣に腰を下ろす。ソファに引っかけた腕を時任の背中に触れるか触れないかの位置に置くと、肩が自然に跳ねた。
 触れて欲しいキモチと触れたいキモチのせめぎ合い。何事も優位に運ばなきゃあね。だから、今は触れない。
「自覚してないんだ?」

 こんなに、『アイシテル』、のに?

「俺様、甘やかされてんのか?」
 納得できないのか、眉間のシワも増える。確かに、甘やかされるっつーのがどんなコトなのか分かんないのかも。過去の記憶はあんまイイコトじゃなさそうだしね。なんか、まっさらの子猫を調教した気分で妙な気分だったり。あー、アマイモノ喰いたい。
「俺ってば、アマイモノ好きだし。」
「意味わかんねーって」
 軽く溜息を吐いた時任は改めてアイスのスプーンを手にした。ホント、美味しそーに食べるよね。スプーンを咥える唇と舌の動きに、コッチの理性が持ちません。
「時任はアマイよね。」
「はあ?」
 背中に回した腕で肩を捕まえて、思いっきり引き寄せる。反射的に逃げようとする時任の顎を固定すると、耳元で囁いた。
「ほら、ここんトコ、アイス付いてる。」
 息を詰めて硬直する隙をついて唇の端を舌先で舐める。アマイ。
「ぅわ……っ、なにっ!?」
 慌てて唇を手の甲で拭った時任が、俺の腕の中で動ける最大の距離をとってコッチを見やる。目尻を紅くして睨まれても、欲情するダケなんですケド。
「ナニって言われても。アイス食べたいなーって。」
 食べたいのは『アマイモノ』。
 しばらく動揺を隠すためか俯いていた時任がぶっきらぼうに、手にしたアイスを俺の目の前に突きつけた。
「――やるっ。」
「どーも。」
 アイスを挟んで止まる時間。
「ナニしてんだよ?」
「食べさせてくれるのかと思って。」
 だってホラ、俺の利き手、塞がってるし。
「……オラ。」
 恥ずかしそうにスプーンですくったアイスを俺の口元に持ってくる。わざと舌で舐めてから、大きく口を開けてアイスを含んで見せつけた。ごくんと動いた時任の首筋に思わずにやける。アイスの味じゃなくて、時任の味を思い出したり。
「アマイね、時任は。」
 スプーンを噛んで手の動きを制限してから、その手袋の手首を握り締める。
「なっ!?」
 肩を抱いていた手でスプーンをアイスに戻すと、今度は腰に回して逃げ場を奪う。それからゆっくりと手袋の指先に軽く歯を当てた。
「ココも、アマイ。」
 爪の付け根あたりを甘噛みしたり、指の間を舌で辿ったり。さすがに野生のソコは刺激に敏感で、時任は声を殺して感覚に耐えてる。ソレって煽ってるんだけど。気付いてないの?
「ちょっ、はな、せって……っ。」
 やっとの思いで出した声はちょっと掠れてて、嗜虐心を誘う。もっと続けた衝動を抑えて、そっと手首を解放した。
 手袋ごと手首を自分で抱きしめた時任を見下ろして、置きっぱなしの少し溶け出したアイスを手にする。スプーンですくうと、肩で息をする時任の鼻先に近づけた。
「お返し。」
「お、おう……。」
 なんの疑いもなく口を開ける表情は、無防備で色っぽい。俺の前だけにしてくれないと、イロイロ大変かもね。
「……ソレ、アマイ?」
 『アマイモノ』が欲しくてタマラナイから。
「?」
「イタダキマス。」
 持っていたスプーンを投げ捨てて、時任の頬に添える。腰を抱く腕に力込めて唇を塞いだ。舌先で下唇を辿ってやると、驚いて拒んでいた歯列が開く。すぐに奥まで侵して、胸を押して抵抗してくる力を奪った。
「んっ、んん……っ。」
 舌を吸って口内を蹂躙する。時々漏れるくぐもった喉声にさらに煽られて、口端から溢れる唾液を追って顎のラインを唇で辿った。
「……くっ、は……っぁ……。」
 堰き止めていた呼吸をゆっくりと解放する。涙目で必死に睨んでくる時任の髪を大きく掻き混ぜた。
「ゴチソウサマデシタ。」
 甘かったし。
「――っ!」
「やっぱ、おいしいね。」
 アイスなんかより、ずっと。
「煙草の味しかしねーしっ。アマくねーっ!」
「おかしいなあ。」





 アマイモノ

 チョコ
 アイス

 俺の、時任。





...end...

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