versus。



 格闘対戦ゲームの負けが混んできて、苛立ち紛れにコントローラーを投げ捨てる。伸びをしたまま振り返ると壁の時計は昼をいくらか回ってた。
「そーいえば、ハラへらねえ?」
 ゲーム中は気にならなかったけど、こうやって時計を見ると無性にハラが減る。
「もう、昼だからねー。」
 知ってたなら言えよ。
「久保ちゃん、メシ。」
「なんで、俺?」
「俺、昨日作ったじゃん。」
「安らかに寝続けるダレカサンのタメに、朝飯作ったのは俺なんだけど?」
 煙草ガマンできずに吸いに行くついでじゃねーか。大体、起きれないのはダレの所為だよ。意地でも作らねえ。
「うーん。じゃあ、食べずにおく?」
「ヤダ。」
 さして困った風でもないクセに「困ったねー。」ナドと呟いて煙を吐き出した久保ちゃんを覗き見る。すぐに視線だけを合わせてきた。大きく鳴った心臓を見透かされるような気配がして、慌てて睨み返す。なんかムカツク。

 俺の見えないモノを見てる目。

 俺の知らないモノを見てる目。

 俺を、見てる目。

 どう動けばどう還ってくるか、全部見極めたソレに負けるのがムカツク。だからこそ、先に賭けを吹っ掛ける。先手必勝。
「久保ちゃんっ。」
 コントローラーを拾い上げて、有無を言わさずコンティニュー。
「うわー。ちょっとヒキョーじゃない?」
 膝の上に放置してあったコントローラーを久保ちゃんが手に取った時、ゲーム画面の体力ゲージは俺様有利に進んでる。
「勝てば官軍だろ?」
 久保ちゃんが持ち直す前に攻撃有るのみ。コンボとか一切ムシで、ひたすらに攻め続けた。
「ッシャーッ!!」
 ガッツポーズと一緒に画面にK.O.の文字。よく見たら俺の方の体力ゲージもうっすらと残ってるダケだ。ギリギリかよ。
「酷くない?」
「久保ちゃんが言うなよ。このイカサマ師。」
「だあね。」
 ゲーム機の上にコントローラーを置いて立ち上がる久保ちゃん。その手首を捕まえて引き留める。
「ナニ?」
「俺様が作る。」
 見返してくる久保ちゃんの複雑な顔に、賭けには勝った気がした。
「なんで? お前が勝ったじゃん?」
「おうよ。俺様が負けるワケねーだろ?」
 メシの準備なんかどーでもイイっつうの。ソンナコトよりもっと大事なコト。
「隣に居てちゃんと俺を見てろ。視線外すんじゃねー。」
 掴んだ手首に力を込めて、立ち上がりざまにそれだけ言うとキッチンに向かう。ビックリして咥えようとした煙草を落としたまま固まる久保ちゃんを置き去りにして。
「オラ、隣に居ろっつったろ? 一緒に作るぞ。」
 スパゲティー有ったっけ?

 ふわ。

 後ろから抱き締められる。
 耳元で久保ちゃんが「うん。」と応えた。




...end...

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