拾得物。


 いつものコンビニの帰り道。吸ってた煙草を指先で抓んで足下に弾き落とす。靴底を持ち上げた瞬間、視界に入ったのは薄汚れた路地の無造作に積まれた段ボール。
「猫でも居ンのか?」
 思った以上に見入っていたらしい。隣を歩いてた時任が正面に立って、路地の奥を覗き込んでる。
「んー? 居た、が正解かな、この場合。」
 新しい煙草に火を点けながら、上目遣いで様子を窺う。まあ、この程度じゃ気付かないっしょ。
「ンな風に睨んだら、逃げるって。」
 路地の先を探していた時任が、ケラケラ笑いながら振り返る。あ、押し倒したいかも。
「逃げないじゃん?」
「ダレが猫だよ、ダレがっ。」
 ちょっとふくれた頬に軽くキスして、びっくりして動揺する隙に肩に担ぎ上げる。なんかもう、ガマンできそーもない。
「……オイッ、え、あ、久保ちゃ……っ。」
 そのまま路地の奥へと追い込んで、肩の上で暴れていた時任をそっと下ろす。僅かな抵抗をコンクリの壁と俺の身体で抑えつけて、一年前に落ちてたその場所で深く、深く口付けた。
 散々に口の中を犯してる内に、押し退けようとつっぱてた時任の手が俺の背中に回る。シャツを掴んだ手に力がこもったのを見計らってから、ゆっくりと唇を解放した。
 時任は目尻を染めてぼーっと突っ立ってたケド、ナニされたか漸く理解したのか、文句を言うために口を開きかける。でも、聞く気はないからね。
「落とし物は半年で拾い主のモンになるんだよね?」
「……はあ?」
「もう、一年経つから俺のモンだよ。時任?」
 ナニ言ってやがるって感じの呆れた顔した時任は出かかった言葉を飲み込んで、それからゆっくりと暗くて少しヒヤリとする空間を見回した。
「ココで――?」
 視線を合わさずにアスファルトを蹴る。今度は狭く切り取られた空を見上げたり。自分を探してるイキモノの、無くした自分を探すよーな仕草。やっぱ時任は自分がナニモノか知りたいんだ。でも、俺は。
「うん。毛並みのイイ猫を、ね?」
「だから、猫じゃねーよ。」
 やっと目を合わせてきた。片眉上げる上目遣いが色っぽい。
「猫じゃなかったら、拾わなかったかも。」
「俺様が人間じゃねーって言いたいワケ?」
「じゃなくて。そこら辺に転がってる人間だったら、拾わなかったってコト。」
 猫じゃなくても良かったんだ。ソコに落ちてたのが時任なら。
「わっかんねー。」
「時任だから。」

 俺は時任がナニモノでも関係ないから。

「は?」
「時任だったから。時任だったらどんなでも拾ったと思うよ?」

 時任が、イイ。

 表情を取り落として見つめてくる視線に、やっぱり押し倒しとくンだったと後悔する。キスだけじゃ、足りない。
 少しずつ紅くなっていく時任の顔に見惚れてると、ダメ押しの台詞を食らった。
「俺は。」
「はい?」
「久保ちゃんだったから、拾われてやった。」

 拾われたのは、俺の方だね。

「――うん。」




...end...

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